【Clair Obscur: Expedition 33】リーチャーに込めたルノワールのアリシアへの希望(NG+プレイ記録10)

クレールオブスキュールエクスペディション33 リーチャーの比喩 考察感想

『Clair Obscur: Expedition 33(クレール・オブスキュール:エクスペディション33)』のニューゲーム+プレイ記録。

初見では気づかなかったあれこれを書いているので、ひと通りクリアしてストーリーを再確認したい方や、NG+プレイ中の独り言を読みたい方におすすめです。

今回は、リーチャーを可能な限り読み解こうと試みる回。

ストーリー全域のネタバレあり。

前回:エピローグの屋敷を散策し、姉妹の会話を振り返る

リーチャーに込められた希望

空を掴みし女と呼ばれるリーチャーは、ルノワールがアリシアをイメージし、「希望」の意味を込めてつくったアクソンだ。

星に手を伸ばそうとして大きくなったと言われており、はたから見ると巨大なアクソンということになっている。

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しかし、リーチャーにいる本当のアクソンは、頂上の木の中にいる個体だ。

アリーン、ヴェルソ、クレアのアクソンに比べて小さい。片目と口がない。引きこもって座ったままその場から動かない。

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ルノワールの描くアリシアのアクソンは、火傷で顔を損傷し、しゃべることができず、部屋で本を読むのを好むアリシアを描き出すと同時に、ヴェルソの死で深く傷ついたアリシアも表現している。


アリシア本人は、自分にはクレアやヴェルソほどの絵の才能も、親との相性もないと考えている。

しかしヴェルソいわく、ルノワールの一番のお気に入りはアリシアであり、ルノワールはアリシアが羽ばたくことを願っているという。

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ルノワールはアリシアの可能性を信じており、その潜在能力や成長性に大いに期待している。

「空の本当の広さを知ることができれば、人生には大きな意味がある」

屋敷のアトリエで手に入るジャーナルに書かれたこの言葉は、ルノワールからアリシアに向けられたもの。

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ルノワールのアリシアへの希望は、ヴェルソの死を乗り越え、勇気を出してコンフォートゾーンを抜け出し、気球のように上を目指して、自分の力を信じて羽ばたくことだ。

しかしアリシア(マエル)は、リーチャーを見上げて「登るの大嫌い」「目まいがする」とネガティブな態度を見せたり、羽ばたくための翼を作業場で拒否したりする。

マエルはまだ、空の本当の広さを知らない。

緑色のオルフランは何の比喩か

ルノワールの親心が反映されているのが、作業場にいる緑のネヴロン(オルフラン)である。

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身なりを整え、シルクハット型の帽子をかぶり、マエルに羽ばたくための翼を渡そうとし、受取拒否されて肩を落とす。

机にはルミエールの新聞が置いてある。

そういえば、消えゆく男もシルクハットをかぶっている。

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つまりこの緑のオルフランは、アリシアを導こうとするルノワールの隠喩だ。

空を掴みし女を邪魔しようとするほかのネヴロンと違って、この緑のオルフランはマエルを攻撃しない。

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たとえアリーンがアリシアに攻撃的であっても、ルノワールはアリシアの味方だという解釈もできる。


ところで、ルネが作業場の発明品を見て「ギュスターヴが見たがったでしょうね」と発言する。

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最初は唐突にギュスターヴの名前が出たなと思ったものだが、これはギュスターヴとルノワールの共通点をさりげなく示唆したと考えることができる。

ギュスターヴはマエルの兄という印象が強いが、マエルの保護者でもあることを忘れてはならない。

忘れ去られた戦場で、マエルがギュスターヴについて「あなたはお兄ちゃんでお父さんだった」と言っているとおり、ギュスターヴはマエルの兄と父の役割を担っている。

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ギュスターヴ埋葬シーン

キャンバスの世界では、ギュスターヴはヴェルソの代わりであると同時に、ルノワールの代わりでもあった。

ギュスターヴをよく知るルネは、緑のオルフランとその発明品を見て、ギュスターヴのことを思い出したのだ。

緑のオルフランがルノワールだと気づくと、娘を見守り導く創作熱心な父親という、ギュスターヴとルノワールの共通点が浮かび上がってくる。

絵の中のアリシアの人物像

※以下、「アリシア」は基本的に絵の中のアリシアのこと

リーチャーに来た目的は、アリシアの手紙を読んだマエルがアリシアに会いたくなったから。

絵の中のアリシアは、アリーンに記憶を与えられた創造物だ。

ヴェルソが火事の前の状態で創られたのに対して、アリシアは顔に火事による傷が残った状態で創られている。

その理由は、火事が起きたのはアリシアのせいだとアリーンが考えているためだと、マエルもアリシアも理解している。

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マエルとアリシアは互いに関心があり、気持ちが通じ合っている一方で、決して同一人物ではない。

マエルと違って、アリシアには癒えない傷が残っている。

絵よりも言葉で表現することを好んでいたアリシアにとって、しゃべれないことは苦痛だろう。

アリーンの怒りによって、アリシアには傷による苦しみが約100年続いている。


その一方で、創造主の理想が反映されているのか、アリシアはマエルより絵に関して熱心に見える。

アリシアはリーチャーの頂上で、大きなキャンバスに絵を描いていた。

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ACT2エピローグの屋敷に飾られていたアリシアの絵は、写真のように小さな額縁に入っていたが、リーチャーのアリシアのキャンバスは見違えるほど大きい。

関連記事:エピローグの屋敷を散策し、姉妹の会話を振り返る

第61遠征隊のジャーナルには、アリシアについて「彼女の創造性と意欲には感心する」と書かれており、アリシアが日常的に創作活動に励んでいたことが読み取れる。

また、キャンプ、旧ルミエールの屋敷、リーチャーなどで、アリシアは時間を止める力を使っている。

そんな離れ業は絵の中のルノワールとヴェルソにはできなかったことなので、もしかするとアリーンもルノワールと同じように、アリシアのポテンシャルの高さを心の奥では信じていたのかもしれない。


アリシアが居場所としているのが、マエルが「登るの大嫌い」と言ったリーチャーの頂上であることも注目すべき点だ。

空にもっとも近い場所で、大きなキャンバスに絵を描いているこのアリシアは、空の広さを知っているのかもしれない。

ルノワールの創ったアクソンに寄り添い、リーチャーに込められたルノワールの期待に沿っているのが、本物のアリシアではなく絵の中のアリシアというのは皮肉な話である。

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アリシアの弱点が火属性なのもあまりに皮肉ではあるが、それはさておき。

ACT3冒頭のルミエールで、ルノワールはヴェルソを「アリーンの最高傑作」と評していたが、アリシアを見たら同じ評価を下すのではないかと思った。

アリシアの願い

マエルと違って、アリシアはヴェルソと距離を置いている。

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ヴェルソとアリシアは偽デサンドル家の実の兄妹であり、ルノワールによってルミエールの全人類が抹消された現在、キャンバス世界に残る唯一の人間でもある(マエル、ルネ、シエルは例外として)。

もっと一緒にいる時間が長くてもいいはずなのに、どうやらアリシアはヴェルソに会いたくないらしい。それも、アリーンが追い出される前から。

アリシアがヴェルソを避ける理由は明らかではないが、おそらくヴェルソが自分の家族ではなく、外の世界のデサンドル家のために動いていたことが原因ではないかと思う。

アリシアの願いは、ふたつのデサンドル家がどちらも生き残る道をマエルが見つけることだった。

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アリシアの手紙

この手紙がヴェルソに渡された時点では、絵の中のルノワールは生きていて、ペイントレスもキャンバスにいた。

しかしヴェルソがマエルに手紙を渡すことはなかったどころか、ヴェルソが手紙を読んだのは偽ルノワールもアリーンも消えたあとだった。

アリシアに残された家族はヴェルソだけになり、そのヴェルソもキャンバスを消したがっている。

アリシアの願いはもう叶えられない。

マエルに「新しい始まりをあげる」と言われたアリシアが抹消を望んだのは、死ぬことでしか家族と一緒にいられなくなったからだ。

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自分に相談なくアリシアを消したマエルをヴェルソは責めるが、当のアリシアがヴェルソに別れを告げる時間を求めなかったことや、ヴェルソのキャンバスにいながらルノワールの創造物を居場所としている点が、アリシアのヴェルソへの距離感を物語っている。

アリシアがヴェルソの気持ちを何年も変えられなかったように、たとえ時間を与えられたとしても、ヴェルソがアリシアを説得できることはなかったのだろうと思う。

アリシアが傷なく創造され自由にしゃべれていたら、ヴェルソともっと話し合うことができて、世界はまた違うものになったのかもしれない。

最後の家族を失ったヴェルソ

アリシアが消えて悲しむヴェルソを見下ろすマエルの視線の冷たさは、少しゾッとするものがあった。

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外の世界では劣等感や疎外感を感じているマエルにとって、キャンバスの世界はみんなに頼られ何でも思い通りになる場所。

創造物の殺生与奪の件は画家が握っているという全能感が、少なからずあるのかもしれない。

別れを告げる間もなく最後の家族を失ったと嘆くヴェルソに対し、マエルは「あれはあの子が望んだこと」「わたしはみんなのことを気にかけてる」と返すものの、ヴェルソから見れば画家に振り回されている感覚はあるのだろう。

ただ、ヴェルソもマエルに対して同じことをしたのだ。

本当は助けられたはずのギュスターヴを、アリーンをキャンバスから追い出すために死なせているのだから。

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マエルもギュスターヴに別れを言う時間はなかったし、当然ギュスターヴを失う覚悟もできていなかった。

そしてエンディングでもヴェルソは、ルネやシエルに相談することなく、キャンバスを壊そうとする。

外の世界では家族で唯一死んだヴェルソが、キャンバスでは家族の中で唯一生き残る立場になった。

これは、本物のヴェルソが経験しなかった喪失感だ。

マエルとルノワールがキャンバスをめぐってもめていることだけでなく、リーチャーでアリシアを失ったこともまた、ヴェルソがキャンバスを消す決断の後押しになっているように思う。


エクスペディション33 NG+記録
  1. ニューゲーム+でプロローグをじっくり見ていく
  2. 白いネヴロンの正体とジェストラルが戦い好きな理由
  3. マエルの悪夢と序盤キャンプイベントのニッチな深堀り
  4. 岩波の崖の祭壇やACT1クライマックスをじっくり見ていく
  5. 忘れ去られた戦場で描かれるキャラクターたちの心理
  6. モノコがいかにアレかという話や旧ルミエールのアクソン考察
  7. なぜシエルとルネはアクソンに屈しなかったのか
  8. モノリスのルノワール戦とペイントレス戦を振り返る
  9. エピローグの屋敷を散策し、姉妹の会話を振り返る
  10. リーチャーに込めたルノワールのアリシアへの希望
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