ゲラルトとシリの関係の始まり。ウィッチャー短編小説「A Question of Price」(英語版・未翻訳)


ウィッチャー原作小説『The Last Wish: Introducing the Witcher』には7つの短編が収録されている。

  • The Voice of Reason
  • The Witcher
  • A Grain of Truth
  • The Lesser Evil
  • A Question of Price
  • The Edge of the World
  • The Last Wish

【関連記事】ウィッチャー原作小説The Last Wishの内容と感想


本記事では「A Question of Price」のあらすじと感想をまとめている。

短編のネタバレだけでなく、ゲーム『ウィッチャー3 ワイルドハント』や小説版ウィッチャー1~5巻の核心にもベタベタ触れているのでご注意ください。

(時系列的にこの短編はゲームや長編小説より前の出来事で、ポーランド語原作もこの短編が先に発表されているので、あらすじだけだったらネタバレには該当しない気はする)

「A Question of Price」は、シリがゲラルトと運命で結ばれるようになった経緯が書かれている大事な短編だ。ふたりのつながりがあまりにも運命的だったのにはもちろん驚いたが、個人的にはニルフガード皇帝エムヒルの昔の姿も印象的だった。


人名・地名のカタカナ表記は日本語版小説やゲームのものを参考にした。



「A Question of Price」の内容

概要

タイトルを訳すと「報酬に関して」。

シントラのキャランセ女王が娘パヴェッタの結婚相手を選ぶために晩餐会を開く。ゲラルトがキャランセ本人からの依頼で晩餐会に参加するところから始まり、最後のほうでゲラルトとシリの関係が明らかになる。

今後配信されるNetflixのドラマ版でもこのエピソードが扱われる可能性は高いと私は思っている。「A Question of Price」に登場する主要人物の何人かがIMDbのキャスト一覧に載っているからだ。


あらすじ

  • シントラのキャランセ女王が、15歳になる娘パヴェッタの結婚相手を選ぶための晩餐会を開催する。スケリッジなど各国の諸侯が求婚者として集まる中、ゲラルトは女王のとある依頼で晩餐会に参列していた。
  • アーケオンと名乗る、兜で頭を隠した男が晩餐会に現れ、亡きシントラ国王ログネルとの約束どおりパヴェッタをもらいにきたと主張する。
  • 兜を取ったアーケオンはハリネズミのような怪物の見た目をしていた。求婚者たちは大反発し、会場で暴動が起きる。アーケオンが攻撃されたのを見たパヴェッタは力を放出して制御不能になる。
  • ゲラルトの活躍で騒動が収まると、アーケオンは呪いにかかっていること、すでにパヴェッタとは愛し合う仲だということが判明する。キャランセがふたりの結婚を認めると、アーケオンの呪いが解ける。ゲラルトはアーケオンにあることを報酬として要求する。

これより先はあらすじに書かなかった短編の核心に触れていく。



「A Question of Price」の解説・感想

登場人物の解説

ゲーム『ウィッチャー3 ワイルドハント』をプレイ済みの方に向けて、この短編に登場する主要人物を紹介する。

小説しか読んでない方で『ウィッチャーV 湖の貴婦人』を読み終わっていない方には特大のネタバレがあるので注意。

キャランセ=シントラ女王。シリの祖母にあたる人物。シントラ国王であった夫を亡くしており、国の安定のために娘をスケリッジの者と結婚させたい。

パヴェッタ=キャランセの娘。シリの母親にあたる人物。

アーケオン=ダニーという名前を持つ。シリの父親にあたる人物。早朝から深夜までは人型のハリネズミの姿になる呪いにかかっている。

エイスト・トルシーチ=スケリッジの族長。ブラン王の兄弟で、クラフ・アン・クライトの伯父。騒動がおさまったあとキャランセに求婚する。

Mousesack=名前なんて読むのか分からない。スケリッジのドルイドでブラン王の相談役。作中では言及されていないがエルミオンのこと。晩餐会ではゲラルトと共にパヴェッタの暴走を止める。

ゲームをやった人は「ん?」となると思うが、アーケオンとエムヒル皇帝は同一人物。そのあたりの詳しいことが明かされるのは小説5巻にあたる『ウィッチャーV 湖の貴婦人』である。

クラフもパヴェッタの求婚者として晩餐会に参列している。この頃すでにヤルマールが生まれているはずなので、なぜパヴェッタの夫候補になっているのかは不明。スケリッジでは誰とも婚姻関係ではないということなのか、私が何か見落としているのか。

このほかにも晩餐会に求婚者やら吟遊詩人やらが10人くらい出てきていて、「短編なのになんでこんなに登場人物が多いんだ」と私は発狂しそうだった。スケリッジ以外の招待客は「A Question of Price」にしか登場していなさそうなので割愛する。



ゲラルトとシリの複雑な関係

「A Question of Price」を読んで私が衝撃を受けたのはまず、ゲラルトとシリの関係はシリが生まれる前に決まっていたということだ。

しかもそのきっかけはシリの母親が生まれる前に始まっていたというのがおもしろい。

詳細をまとめるとこうなる。

アーケオンことダニーがログネル(シントラ国王・シリの祖父)を助ける

ダニーはログネルを助けた報酬として、当時キャランセのお腹の中にいたパヴェッタをもらう約束をする

15年後、キャランセが開いた晩餐会でダニーはパヴェッタとの結婚を主張する

パヴェッタの求婚者たち大乱闘が起き、殺されそうになったダニーをゲラルトが助ける

キャランセがダニーとパヴェッタの結婚を認める

ダニーを助けた報酬として、ゲラルトはパヴェッタのお腹の中にいるシリをもらう約束をする

シリの運命は生まれる前に決まったのだが、シリの母親パヴェッタの運命もダニーとログネルの約束によって生まれる前に決まった。

ゲラルトとシリの運命は、親世代からの運命が積み重なって作られた複雑で分かちがたいものだったと言える。

短編では一連の因果関係が見事で、最後のページでゲラルトがまだ生まれてもいないシリをウィッチャーとして育てると告げたときは鳥肌が立った。

ちなみに、人の運命が口約束で勝手に決められてしまうというのが現代の感覚では信じられないが(現代の感覚を言うとダニーが15歳のパヴェッタを妊娠させているのもアウトだが)、これは「Law of Surprise」というウィッチャーの世界では一般的な慣習によるものだ。

Law of Surpriseについては別記事「ゲラルトとシリをつないだLaw of Surpriseとは。ウィッチャーの世界の習慣」で解説する。


エムヒル皇帝の過去

「A Question of Price」で重要なのはゲラルトとシリのことだけではなく、ダニーという男にも注目しなくてはいけない。

ダニー=シリの父親=エムヒル皇帝。この短編では30歳前後かな。

この短編でダニーはゲラルトに命を救われ、ゲラルトに大層な恩を感じている。報酬は何でもあげると言ったほどだ。

「ダニーはゲラルトに恩ありまくだけど、なんでゲームのゲラルトとエムヒルはあんなに険悪だったの?」というのが「A Question of Price」を読んだ直後の私の感想だった。

短編集『The Last Wish』を読み終わったあとに小説5巻『ウィッチャーV 湖の貴婦人』を読んで、ようやくいろいろつながったと同時に、「A Question of Price」のダニーとエムヒルのギャップや、シントラで起きた悲劇の理由を知ってショックだった。

というのも「A Question of Price」は、ディズニーにも負けない美しいハッピーエンドを迎えているからだ。

パヴェッタにはふさわしい結婚相手が見つかり、キャランセにはスケリッジの有力者が求婚してシントラも安泰、ダニーは愛する人と結ばれた上に呪いが解けて万々歳。あと必要なのは「いつまでも幸せに暮らしましたとさ」という締めの言葉だけ。

こんなに幸せそうな人たちに何があった? という疑問に答えるのが小説5巻でゲラルトとエムヒル皇帝が会話するシーンだった。

ダニーというのはエムヒルの身分詐称で、ダニーはパヴェッタを愛したことはなく、パヴェッタもキャランセもダニーのこと信用していなかったらしい、というのが明かされた。

ダニーとパヴェッタは晩餐会の前から逢瀬を重ねて愛し合うようになったと短編では説明されていたので仰天です。

まあ小説5巻を読んだ感じだとダニーが変わってしまったのではなく、元々ダニーという存在がウソのかたまりだったようだから、「A Question of Price」というのはゲラルトが居合わせた歴史のほんの一面を切り取って描いただけなんだろうなと思った。

ダニーが本当はニルフガード皇帝の息子だとか、ダニーが将来ニルフガードに戻ることになるとか、ダニーが予言に従ってシリを奪うことになるとか、シリをめぐってパヴェッタもキャランセもダニーに殺されることになるとか、シントラがニルフガードに占領されることになるとか、そういった後々分かる悲劇の伏線は一切「A Question of Price」には書かれていない。

「A Question of Price」単独でも作品として十分に魅力的だけど、小説5巻まで読むとダニーことエムヒルは相当ヤバい男だというのが判明するので、両方読んだほうが間違いなく楽しい。


ゲームの人物事典だとエムヒルの紹介文は短い。しかし彼、本当は経歴がとんでもなく複雑なのだ。また、冷徹な所業の数々がありながら慈悲深いところを見せる一面もあって、キャラクターとしていろいろ賞賛に値するレベルだ。


ウィッチャーサーガのスピンオフとしてエムヒルサーガが出たら、きっとウソまみれで非道徳的で鬱展開の連続になって絶対おもしろいと密かに思っている。

The Last Wish: Introducing the Witcher(Amazonのページ)



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