ゲーム・オブ・スローンズ最終話感想。スキル・知性・物語の支配について


ゲーム・オブ・スローンズの最終話を見ながら思ったことが2つあった。

これから公式の関連動画やいろいろな方の感想を見て意見が変わる可能性もあるが、今の時点での考えを残しておこうと思う。

過去の関連エピソードを振り返りながらの感想はこちら。

>>過去エピソードで振り返るゲーム・オブ・スローンズ最終章6話感想①
>>過去エピソードで振り返るゲーム・オブ・スローンズ最終章6話感想②

それにしても心の中は喪失感でいっぱい。

※シーズン8のネタバレ含みます



スキルと知性があれば弱者でも統治できる世界へ

1つめは、原作者および製作者は何を伝えたかったのかということだ。

権力者イコール勝者というわけではないが、最終的に王の座を得たのは障害者のブランと、独り身の若い女性であるサンサだった。ついでに言うとブランの王の手に就いたのは子鬼のティリオンである。

障害者や女性というのは、まだまだ現実世界では社会的な偏見を受ける立場にある。中世ヨーロッパをモチーフにしたウェスタロスでは尚更だろう。

ブランは努力で身につけた特殊なスキルで、サンサは過酷な状況で学んだ知性で権力を得た。

もちろんふたりともスタークという家柄があってのことだが、彼らの王位を引き継ぐのはスタークではない可能性が高く、となるといよいよ実力で統治者が決まる時代が訪れる。

この世を支配するのは、血筋でも身分でも性別でも五体満足でもなく、スキルや知性であるべきというのが、原作者や製作者のうったえなのかもなと思った。

話はそれるが、2008年にオバマ氏がアメリカ大統領に当選されたのは、それより前に『24 -TWENTY FOUR-』(ジャック・バウアーが主人公のドラマ)の中に黒人大統領が登場していたことが大きく影響している、とかつてカナダ人の英会話教師から聞いたことがある。

英語圏で絶大な存在感を持つゲーム・オブ・スローンズも、これからの世界に大きな影響を与えるかもしれない。



Storyが治める世界

2つめは、ティリオンが「人々を団結させるのは物語(story)だ」と言ったことについて、個人的に考えたことをまとめたい。

このセリフを聞いたとき、私は一瞬「ティリオンは『サピエンス全史』でも読んだのか?」と思った。

『サピエンス全史』はイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリによって書かれた人類史の本。

その中に、人間がほかの動物と違う形で発展できたのはフィクションを作る力と、それを信じる力があったから、とある。

宗教、権力、お金の概念などは、多くの人が信じることで影響力を増した。見知らぬ人どうしが団結したり、お互いを信じたりできるのは、共通して信じるフィクションがあるからだ。というような内容だったと思う(自信70%)。

ティリオンが言ったstoryは、フィクションとしての物語というより「過去の出来事」の意味になるが、想像で作ったものだろうと事実だろうと、重要なのは信じる人が多ければ多いほど強い力を持つということだ。

デナーリスの語る理想の世界も、多くのドスラク人やアンサリードが信じていたという点で強力だった。

しかしティリオンは、もっとも強力なのは「good story」だと話す。「good story」は「良い物語」とも「善い物語」とも取れる。デナーリスの理想はあくまでデナーリスひとりで作られた偏った考えであり、結果的に多くの人を不幸にする悪い物語と見なされジョンとティリオンに阻止された。

ブランは過去のいい出来事も悪い出来事もすべて知っている。きっとデナーリスの物語やティリオンの物語やジョンの物語はもちろん、歴代の統治者の物語も承知だ。さまざまな視点で物語を見たことで、悪い物語は繰り返さず、善い物語を見習って人々を導くことができる。

そう信じたから、ティリオンはブランや諸侯はブランを王に選んだのだと思った。まあ、それは王じゃなくてもいいのでは? と思わないでもなかったし、ブランのあとに王になる人のハードル高すぎないか? と思ったが(三つ目の鴉ごと継承するのか?)。

また、「国」というものも、人間が作り上げたフィクションだと『サピエンス全史』にあった。

(私なりに説明すると、日本という国もさかのぼれば誰かが作ったものだが、私たちはそれを当たり前のように国として信じているし、諸外国も国として認めてくれているから国として存在している。一方、クルディスタンはクルド人にとっては国だが、世界ではクルディスタンはあくまでクルド人の居住地帯であり、国としては認められていない。)

王というものは血筋で決まると信じていた人々にとって、新しい国を受け入れるのには時間がかかるだろう。現実世界でも、海外のコメントを見ているとブランが王になったことを批判する人がけっこういる(シーズン8では何もしてないじゃないか、という意見が多い)。

六王国はまだ人々に支持されておらず、国としては弱い。だが、ブランとティリオンが過去の物語に学びながら作る国が、多くの人に受け入れられ信じてもらえるようになれば、六王国は強力な物語として人々を団結させるだろう。



ゲーム・オブ・スローンズというstory

ゲーム・オブ・スローンズというドラマも、世界中の多くの人が夢中になり、話題になり、影響力のある「story」だった。

私も視聴中のみならず、最終話を見終わった今でもこうしてゲーム・オブ・スローンズという「story」に心と時間を支配されている。

物語というのは困ったことに、語るのがうまければ悪いことでも正しいことのように聞こえるので、盲目的に信じてしまうのは危険だ。

それでも私は今後もたくさんのおもしろい「story」に出会い、支配されることを望んでいる。あとは「good story」を見極められる知性があればいいのだが。

>>過去エピソードで振り返るゲーム・オブ・スローンズ最終章6話感想①
>>過去エピソードで振り返るゲーム・オブ・スローンズ最終章6話感想②


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