【Clair Obscur: Expedition 33】ヴェルソのスケッチはなぜ特別なエリアなのか

『エクスペディション33』の、アップデートコンテンツにして最も美しいエリア、ヴェルソのスケッチの感想。
フィールドに散りばめられた小物やイベントシーンから、このエリアに込められた意味を考えていく。
イベントシーンのネタバレあり。
本物のヴェルソを知れる場所
足を踏み入れた瞬間にため息が出るような、色鮮やかで子どもの想像力にあふれた美しい空間が広がるヴェルソのスケッチ。

甘ったるそうなキャンディに風船、おもちゃに遊園地、空飛ぶ列車、ありったけのエスキエ、思い思いに過ごすジェストラル、ヒーローごっこの悪役が言いそうなセリフが似合う、いかにも敵役らしいキャラなど、イメージを具現化できる画家という設定を存分に活かした、夢とユーモアでいっぱいのエリアになっている。

本物のヴェルソが姉や妹にも見せなかった隠れ家であり、キャンバス内時間で6000年以上、キャンバス外時間で16年前にはつくられていた場所だと考えられる。
ヴェルソのスケッチは、ルノワールやアリーン、クレアの作品が存在せず、ヴェルソだけによって作られた特別な場所だ。
プレイヤーがゲーム内で関わることのない、本物のヴェルソの面影がもっとも色濃く残るエリアであり、彼がどんな人物だったのかを、本人の作品を通じて体験できる貴重な空間となっている。
家族思いの少年
森エリアには、ヴェルソのツリーハウスがある。
隠れ家の中の隠れ家とも呼べるツリーハウスには、ヴェルソの描いた絵や私物が残されている。
中でも目を引くのは、家族を描いた絵だ。

ヴェルソは、部屋で熱心に絵を描くクレアをしょっちゅう覗き見して、生まれたばかりのアリシアを大きなハートを描くほど大好きで、愛犬モノコとは親友のように一緒に遊びに出かけていた。

アリーンにはピアノを教わり、ルノワールとは一緒に過ごしながらも、その背中を追うように接していた。
ヴェルソは家族を大切にし、またヴェルソも家族に愛されていたのだろうと思わせる絵ばかりだ。
ヴェルソとルノワールの髪型がそっくりで、アリーンの髪型はペイントレスにそっくりなのも興味深いところ。
捨てきれぬ音楽への想い
ヴェルソのスケッチは、ヴェルソが逃げたくなったときの秘密の隠れ家だった。
何から逃げたいと思ったのか?
答えは明確には出てこないものの、音楽への夢や情熱と、画家としての運命が大きく関係していると考えられる。
ツリーハウスにはグランドピアノが置いてあるし、エリア内のところどころに楽譜が落ちている。

崖際には、絵の具で汚れた楽譜が、風に舞うように飛び散っている。

(中には、表紙にリアルルノワールの作品『ピアノに寄る少女たち』が描かれているものも)
本当は音楽家になりたいのに、音楽を手放さなければいけない。
そんな気持ちに押しつぶされそうになりながらも、音楽への想いが捨てきれない、ヴェルソの複雑な感情がにじみ出る。
オスキオが表すヴェルソの怒り
ヴェルソは音楽家になれない人生に怒りを感じていた。
怒りというより、やるせなさだったり、どうしようもない衝動だったりと、もっと混沌としたものかもしれない。
両親に対して怒っているわけではない。そうであれば、家族と笑っている絵を残したりはしないだろう。
音楽への夢を隠していたヴェルソが、両親から「お前は画家になれ」と圧力をかけられた可能性は低そうだ。
王族は王族として生きるしかないように、画家は画家として生きることが当たり前の世界だとすれば、ヴェルソには画家をやめるという概念がなかったかもしれない。
画家になるという宿命を負ったヴェルソの、行き場のない感情を受け止めるのがオスキオだ。

いつも楽しそうで決して怒らないエスキエとは対照的に、オスキオはトゲトゲしくてピリピリして荒々しい。
ヴェルソの怒りを映す鏡であり、心の葛藤を表現する存在となっている。


音楽家ではなく画家になるしかない。その心の声はヴェルソのものではないが、呪いのようにヴェルソを覆い、家族の誰にも見せなかった隠れ家で密かに怒りを放っていた。
だからこそ、オスキオと戦い、オスキオを倒し、ヴェルソ自身の手で決着をつけ、呪いを打ち破ったことが意味を持つ。

描かれたヴェルソが、ヴェルソの呪いに抵抗し、呪いから解放する。
その姿をヴェルソの魂は見ていた。

描かれたヴェルソとヴェルソの魂は別人だが、ヴェルソのスケッチは、ふたりのヴェルソに本物のヴェルソの気持ちや思い出を共有させる場所となった。
オスキオの髪型にすると、ヘヴィメタル風の外見になる。

ヘヴィメタルは既存の権威への反発、自由と解放、内なる怒りを表現する音楽性が特徴なので、この状況にとてもよく似合うコンセプトだと思う。
(余談。以前の記事「花びらの色の意味と…」で紹介した動画によると、ヴェルソのクロマの色はルノワールと同じ赤。オスキオを倒すイラストで、ヴェルソのマントの色は赤)
キャンバスを壊したくないと思わせる空間
ヴェルソのキャンバスは、ヴェルソの空想や悩みを覗き見しつつも、仲間と楽しい思い出ができるエリアになっている。
ジェストラルと遊んだり、

みんなで空中ブランコに乗ったり(ひとりずつ乗っているので、「みんなで」とは言えないが)、

ヴェルソの髪型をした、超すごくイケてるジェストラルのバースデーパーティーに招待されたり、

思った以上に遊べる空間だった。
少年時代のヴェルソの、こうして家族と一緒に過ごせたらいいのにという願いが込められているのかもしれない。
ヴェルソはACT3のあいだはずっと硬い表情だが、ヴェルソのスケッチでは、ACT2のキャンプで見せたような笑顔になるのも印象的だった。

ヴェルソの魂が残る、生命力と家族への愛と才能にあふれた世界。
ヴェルソのスケッチで過ごすと、キャンバスを消したくないという気持ちが湧いてくる。
これまではキャンバスに執着するマエルにあまり共感できなかったけど、今ならその気持ちが分かる。
分かるけど……

やっぱりこのキャンバスは壊さないといけないよなーという葛藤。
それだけヴェルソのスケッチは特別なエリアだった。
- リーチャーに込めたルノワールのアリシアへの希望
- 最終決戦でのマエルとルノワールの衝突、ヴェルソの決断
- 悲しみの受容へ。エンディング解釈と感想
- 冷たい完璧主義者に見えるクレアの本当の姿とは
- フォトモード実装で中毒性マシマシに
- 花びらの色の意味とアリシアは◯◯◯◯◯◯◯◯◯という説
©2025 Sandfall Interactive SAS – Published by Kepler Interactive Limited. All rights reserved.
