ドゥードゥーの未来は明るいか。ウィッチャー短編小説「Eternal Flame」感想(英語版)


※本記事は『ウィッチャー短篇集2 運命の剣』収録の「永遠の炎」を英語版で読んだときの感想です(2022/03/27更新)

ウィッチャー原作小説の2作目『Sword of Destiny』に収録されている6つの短編小説のうち、3つめの短編「Eternal Flame」のあらすじと感想をまとめた。

ゲーム「ウィッチャー3」に登場したドゥードゥーや永遠の炎教会が初登場するエピソードだ。

関連記事:ウィッチャー原作小説Sword of Destinyの内容と感想


「Eternal Flame」のあらすじ

  • ノヴィグラドでダンディリオンと再会したゲラルトは、宿屋でダンディリオンの知人でハーフリングの商人デインティ・ビベルヴェルトと会う。
  • 突然もう1人のデインティが現れる。ゲラルトたちが話していたデインティはドップラーのドゥードゥーが化けていた偽物だった。ドゥードゥーは騒ぎに便乗して逃亡する。
  • デインティになりすましたドゥードゥーはデインティから盗んだ馬を売り、手に入れた資金で物品を大量に買い、商取引で大金を得ていた。デインティはドゥードゥーの商才に感嘆し、ゲラルトとダンディリオンと共にドゥードゥーを捜索する。
  • ドゥードゥーを発見したところに、永遠の炎教会の保安長官シャペルが現れる。

これより先はあらすじに書かなかったネタバレに触れつつ、解説や感想を書いていく。


ドゥードゥー以外の登場人物について

ヴィヴァルディ銀行登場

ゲーム「ウィッチャー3」では両替やクエストでお世話になるヴィム・ヴィヴァルディおよびヴィヴァルディ銀行が登場する。

本短編では、デインティがヴィヴァルディ銀行に口座を持っていたため、デインティになりすましたドゥードゥーが何をして何が起きたのか把握するためヴィヴァルディに話を聞きにいく。

そこでデインティの口座に大金が入ったことが分かり、デインティはドゥードゥーを許すことになる。

なお私はゲームで、両替するつもりでヴィヴァルディに話しかけたのに、ボタンを連打していたために選択肢の一番上にあった融資を選んでしまい無用な利息を払わされたことが何回かある。

シャペルの正体

シャペルは永遠の炎教会の保安長官で、ノヴィグラドで危険な男ナンバー1と言われていた。

詳しくは「ウィッチャー3」の人物事典に書かれているようだが、この短編で登場するシャペルはドゥードゥーではない別のドップラーが姿を変えたもの。

本物のシャペルは前々から病気の噂があり、2ヵ月前に死亡している。

(自分でもゲームの人物事典を確認しようとセーブデータを開いたが、ニューゲーム+を始めたばかりで未だにホワイトオーチャードをウロウロしている状態で人物事典が全然事典になっていなかった)


ドップラーの変身能力

ドップラーは目にした生き物に姿を変えることができるモンスター。

変身できるものに制限はあるものの、相手の見た目だけでなく、着ている服や声、しぐさ、思考までコピーすることができる。

ゲラルトとダンディリオンもドップラーの能力を目の当たりにして驚愕していたが、虫刺されの痕や洋服のシミといった細かいところも再現され、本物と見分けるのは極めて困難。

ゲラルトいわく、ドップラーは知的生命を殺さない無害な生物であり、気性は穏やかで優しいそうだ。


共存したいというドゥードゥーの望み

ドップラーは人間に狩られて稀少生物となった。

生き残ったドップラーの多くは人間に化けてノヴィグラドで生活しているが、モンスターなので正体がバレたら殺されてしまう。

ドゥードゥーの望みは、ドップラーもハーフリングやドワーフ、エルフなど他の種族のようにノヴィグラドで暮らすことだった。

デインティは最初、自分に化けて馬を奪い、資産を好き勝手に使ったドゥードゥーを恨んでいたが、ドゥードゥーが取引で自分に大金をもたらしたことを知ると考えを改め、自分そっくりのドゥードゥーをいとことして扱うようになる。

これによってドゥードゥーはノヴィグラドに居場所を得て、安全に生活できるようになった。

しかしドップラーに対する人々の意識が変わったわけではない。ドップラーがドップラーとして生きていける日が訪れる可能性は非常に低いような気がする。

まず、人々にはモンスターは倒すべきという考えが根強く、ゲラルトのように「人間に危害を加えないモンスターは殺すべきではない」と考える者は少数派だ。見つかれば無事では済まないだろう。

そして問題が2つある。1つはドップラーが実際に存在する者にしか変身できないことだ。

シャペルのように死んだ人間に成り代わるにしても、デインティのように生きている者に化けるにしても、偽物だと発覚すればトラブルのもとにしかならない。

本物と瓜二つに変身できる能力は利点でもあるが、欠点でもある。

さすがに、自由自在に姿を変えて人間社会に溶け込めるのは黄金のドラゴンくらいだろう。

>>ゲラルトの不器用さと大義。ウィッチャー短編小説「The Bound of Reason」感想

2つめの問題は、ドップラーが外見だけでなく思考をコピーできるというのは、不気味なだけでなく脅威にもなり得るということだ。

ドゥードゥーはデインティの姿で大もうけしたが、それは今まで変身した者たちの知識や経験の蓄積があったからだろう。

ドップラー自体には他の生物に危険を及ぼす意思がなくても、ドップラーが他者をコピーするだけで能力をどんどん向上させることに周りが危機感を抱けば排除の対象になる。

また、ドップラーの高い能力につけ込む者が出てくる可能性がある。

デインティだって、表面的にはドゥードゥーを親戚ということにしてかくまっているが、邪推すれば単に大もうけするためにドゥードゥーを利用しているとも考えられる。

個人の金もうけなら大したことないほうで、例えば権力者に変身させて国家転覆を謀ろうとか、機密情報を盗もうとか、悪意を持った者がドップラーを利用したら大事件である。

本作「Eternal Flame」はハッピーエンドで終わったが、現状ドップラーが平和に社会生活を続けるためには正体を隠し通すしかなく、ドゥードゥーの未来は必ずしも明るくはないのでは、というのが率直な感想だ。


恋多き男ダンディリオン

ゲラルトは新しい上着を買いにノヴィグラドを訪れていた。イェネファーのことを思い出しながら歩いていると騒ぎ声が聞こえ、何事かと思い向かうとダンディリオンがパシフローラの娼婦ヴェスプラから浮気を責め立てられ追い出されているところだった。

というのが短編冒頭のゲラルトとダンディリオンの再会シーンだ。

ヴェスプラはダンディリオンの婚約者だったらしいが、ダンディリオンは「俺の婚約者って、何人いると思ってるのさ」くらいの軽いノリ。

相手の前では真剣なのかもしれないが、ダンディリオンの愛は狩猟民族のように次々と場所を変える。

逆にゲラルトはイェネファーひとすじ、農耕民族のような定住型だ。ゲラルトとダンディリオンの性格の違いが出て面白いなと思った。



「Eternal Flame」は『Sword of Destiny』の中で唯一、愛や運命が大きなテーマになっていない短編で、前作『The Last Wish』に収録されている作品の雰囲気に近い。

ドゥードゥーが資金や物品を得る過程は株取引のファンタジー版で、経済に弱くて全然わからんとても読み応えがあった。

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