アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」感想。アイヌの考え方や概要が分かる


『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』 は、アイヌ語の研究者であり、野田サトル先生による漫画『ゴールデンカムイ』のアイヌ語監修者でもある中川裕さんによる、アイヌ文化の解説本だ。

『ゴールデンカムイ』に登場するアイヌ文化、小道具、動物、食事などの解説がたくさん書かれており、原作の背景をより深く理解できるようになっている。

私は『ゴールデンカムイ』が好きで、さらに北海道旅行の予定もあったので、アイヌのことが分かればいいなあと思って何気なく手に取ったが、実際に読んでみると『ゴールデンカムイ』とは関係ない部分で価値観を揺すられるような記述があり、とても興味深い本だった。

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ゴールデンカムイ好きにはうれしい内容

この本では『ゴールデンカムイ』で紹介されたアイヌの風習や言葉について、漫画のシーンを盛り込みながら詳しく解説されている。

また、

  • 『ゴールデンカムイ』はどこまで歴史に忠実なのか
  • 本当に子供に「オソマ」みたいな名前をつけていたのか
  • なぜアシリパの「リ」が小文字なのか

といったライトな疑問が解決するので、原作ファンならかなり楽しめるはずだ。

『ゴールデンカムイ』をまったく知らない人にとっても、以下に述べる私の感想が『ゴールデンカムイ』の話題ではないことから、アイヌの入門書として読む価値のある本だと思う。



「他者に生かされている」というアイヌの考え

アイヌにとって、あらゆるものは神(カムイ)が人間に見えるように姿を変えたものとされている。

クマやカラスといった動物はもちろん、植物や道具や炎でさえも、カムイが衣装をまとって人間界に現れたものなのだ。

肉や毛皮や熱といった、「人間が自分の手では作れないものをカムイに提供してもらう」という考えから、アイヌは常に周りの環境への感謝を忘れないのだという。

かといって過剰にカムイを敬うというわけではなく、人間とカムイはあくまで対等。受けた恩恵には感謝を示すが、人間を殺した動物などには今後悪さをしないよう罰を与えるのだそう。


技術が進歩するにつれて、人間はほかの生物よりすぐれていると意識するようになった人もいる。

そんな世の中で、アイヌの「他者に生かされている」という考え方は学ぶべきものかもしれない。

アイヌは自分たちの手で獲物をつかまえ、植物をとり、火をおこして調理する。一方、発達した技術の中で生きる私たちは、例えば肉を口に運ぶまでの過程だけでも家畜を育てる人、解体する人、肉を運ぶ人、肉を売る人など、何段階もの人の手を経ている。

この距離を意識して自分を生かしてくれるもの(例えば牛や鶏)に感謝することはないし、ましてや、アイヌのようにあらゆるものは人間と対等と考える機会もない。

しかし人間が生きていられるのは「他者に生かされている」からだ。食卓に並ぶおかずの食材も洋服の材質も、自分の力で生み出せるものではない。

周りのあらゆるものに感謝するアイヌの姿勢は、自分がほかの生き物や環境におごらず暮らすためのヒントになるかもしれない。




日本の政策で消えゆくアイヌ文化とその復興

植民地支配というとヨーロッパのイメージが強いのだが、日本も台湾や朝鮮半島などを植民地にしていた時代がある。

それとは別に、勝手によその土地にあがりこんで、言葉も文化も違う人々を無理やり自分たちの支配下に置くようなことを、日本政府は「開拓」という名で北海道のアイヌに対して行っていたのだ。

日本史をまじめに勉強しなかったせいで、アイヌへの政策について学校で習ったかどうかすら覚えていないのが情けないことこの上ない私だが、この本のおかげでアイヌが日本政府から受けた弾圧や差別の経緯を知った。

もとはアイヌと和人(アイヌから見た日本人)は対等に交易をしていたが、江戸時代になると日本側がアイヌを政治的・経済的に支配するようになった。

明治時代には政府が一方的にアイヌの人や土地を日本の領域に組み込むようになり、アイヌの権利は無視されるようになった。

こうした内容が詳しく書かれている。

北海道に行ったときにアイヌの方から聞いた話では、アイヌの両親ものとに生まれても、差別されないため日本人として育てられた人が多かったそうだ。

日本が先住民の権利を認めないからアイヌ語話者は減り、伝統的なアイヌ文化はどんどん消えていったし、その後の補償についても全然話が進まないとも言っていた。

特に言語に関しては深刻で、アイヌ語を母語とする人はもういない状況だと本にも書かれている。

消滅しそうな言語の復興の成功例として、著者はハワイ語を挙げている。ハワイ語は英語に取って代わられようとしていたが、学校教育でハワイ語を取り入れられるようになって徐々にハワイ語話者が増えてきているのだという。

アイヌ語の話者を増やすのは簡単ではないだろうが、アイヌ語を消滅させず、後世に残していくことは価値のある取り組みだ。

2020年オープンの国立アイヌ民族博物館は展示にアイヌ語を表記することを目指しているそうだし、私たちが『ゴールデンカムイ』以外の場でアイヌ語に触れる機会が増えていくことを期待したい。

いずれは外国人だけではなく先住民も、日本の多様性を構成する要素のひとつとして認識される社会になるといいなと思う。



北海道を旅行する前に読むのもおすすめ

札幌の北海道博物館や北海道大学植物園、小樽の小樽市総合博物館(運河館)にはアイヌに関する展示がある。

北海道旅行の予習にこの本を読むのはおすすめだ。私もそうした。

アイヌの歴史や考え方を知ってから展示を見ると年表や説明文の内容が分かりやすくなるし、実物の道具や衣服なども「これがあれね」とアンテナを張りながら見られるようになる。