中国SF小説『三体』感想。理系とSFに疎くても人間の想像力に圧倒される

2021/04/22

読書

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中国SF小説、劉慈欣の『三体』を読みました。

事前知識は、

  • 世界的ベストセラーになった中国のSF小説らしい
  • これは三部作の1作目らしい
  • Netflixで実写ドラマ化されるらしい
  • ドラマ版の製作総指揮と脚本が『ゲーム・オブ・スローンズ』のデビッド・ベニオフとD・B・ワイスらしい
  • 完結作の日本語版が2021年5月25日に発売されるらしい

くらい。

今までSF小説をあまり読んだことがなく、話について行けるか心配だったが、特大スケールのストーリーや想像したことのない世界を経験できてとてもおもしろかった。

映画『コンタクト』や『メッセージ』が好きならSFになじみがなくても楽しめると思う。

科学や物理の話が多く、「何を言っているのか分からない」となる場面がないわけではないけれど、大変なのは理系の話よりも登場人物の名前を覚えることだった。

中国人名に慣れていないので、日本語の音読みと中国語読みがごちゃごちゃになる。

葉文潔は「よう ぶんけつ」だっけ、「イエ・ウェンジエ」だっけ、と。どちらも同じ人物なのだが。

途中から中国語読み(イエ・ウェンジエのほう)で覚えようと自分の中で統一して、そこからはわりと覚えやすくなった。

ちなみに、登場人物はたくさんいるが、話を追うだけなら葉文潔と汪淼と史強の3人さえ覚えれば何とかなる。


以下、『三体』で印象に残ったことについての感想です。ネタバレあり。

2作目を読んだら変わる感想もあると思いますが、1作目を読んだ時点で思ったことをまとめました。

『三体』を読んでみようかなという気持ちが少しでもある場合は、本を読み終わってからネタバレに触れることをおすすめします。

劉 慈欣(著)、大森 望(翻訳)、光吉 さくら(翻訳)、ワン チャイ(翻訳)、立原 透耶(監修)

葉文潔のこと

『三体』で最も印象的だったのは葉文潔。

エイリアンの地球侵略のきっかけを作った人物だ。

葉文潔は人類へのあきらめが強く、紅岸基地でためらうことなく「この世界の征服に手を貸してあげる」と三体人に返事を送った。

葉文潔の最優先は外部文明に人類を矯正してもらうこと。

その目標は家族の命よりも大事らしい。

葉文潔が地球三体協会の最高司令官だと分かったときは驚いたけど、そのあとの回想で葉文潔が妊娠中に夫を見殺しにした事実にさらに驚いた。

あの葉文潔があの楊衛寧と結婚することになった経緯は何気に気になったものの、詳しいことは書かれていない。

そこは話の本筋に必要ないから、というだけでなく、家族関係のことが語られないこと自体に葉文潔の家族に対する関心の薄さが表れているように思う。

第二部を読んでなぜ葉文潔はこんなふうになったのだろうと思ったけど、そういえば葉文潔の土台が書かれているのが第一部だった。

尊敬する父親を文化大革命で亡くしたこと。

その2年後にレイチェル・カーソンの著書『沈黙の春』に出会ったこと。

特に『沈黙の春』が葉文潔に与えた影響は大きく、『沈黙の春』によって葉文潔は人類のすべての行為は悪、悪こそが人類の本質、人類がみずから道徳に目覚めることはありえない、人類が道徳に目覚めるとしたら人類以外の力が必要だ、と考えるようになった。

人類の悪をより高度な文明に正してもらうという思考が、紅岸基地での行動につながる。

葉文潔は人間の悪や狂気を止めるために、三体文明を地球に招き入れることにした。

その目標のためなら家族を含む全人類が犠牲になっても構わないのだ。

たしかに戦争や核兵器、環境破壊などは人間の悪によって生まれ、今後も人間の支配欲や経済発展のために自然や生物が犠牲になるのだろう。

しかし、その悪を正すために全人類を巻きこみ、子孫を犠牲にするのは果たして正しいことなのか。

見方によっては葉文潔の行動こそが利己的で狂気に満ちている。

それでも淡々と目標を見すえながら生きていく葉文潔が印象的だった。

三体人のこと

三体人はどんな姿をしているのか、というのが目下気になるところ。

VRゲーム三体の中では人間を三体人に見立てていたが、それは便宜上のものだ。

今のところ、三体人の見た目については明かされていない。

スター・ウォーズやスター・トレックの世界だと、エイリアンでも二足歩行だったり意思疎通に言語を使ったりと、人間と交流するのに支障のない生態であることが多い。

でも、地球外生命体というのは映画『メッセージ』に登場したエイリアンのような、見た目も文字も言葉も人間とは程遠い生物なのではないかな、というのが個人的な期待。

だから三体人も、想像つかないような姿であってほしいと勝手に思っている。

まあ、脱水できる知的生命体という時点で想像を超えているが。脳みそとか存在するのだろうか。

ところで、私は終盤の三体人の会話について行けなかった。

陽子の次元を上げて、陽子に高度な知性を持たせて、十一次元に移行した4体の陽子のうち2体を地球に送り込んで地球の科学を封じ込め、残り2体で地球を監視しましょう、と話しているあたり。

科学執政官の言っていた「七次元の視点から見た粒子は三次元空間における三体星系に匹敵する複雑さです」とか「八次元の粒子は天の川銀河全体と同等の存在です」とか、読んでいて「???」だった。

四次元もよく分からないのに…。

私が理系に強ければもう少し理解できるのかもしれないが、そもそもこれは地球人より高度なテクノロジーを持つ姿形も分からない生き物の会話である。

理解できなくても仕方ないではないか。だって地球に存在しないものについて話しているのだから。と開き直ることにした。

(地球に存在するものについても理解できていないことが多々ある件については考慮しないものとする)

とりあえず汪淼の目に映ったカウントダウンを始め、地球で起きた不可解な現象の原因は、三体世界が地球の科学の発展を止めるために送り込んだ陽子のせいだったということは分かった。

ナノマテリアルのワイヤーのシーン

実写化されたらさぞかし強烈なシーンになるだろうなと思ったのが古筝作戦。

地球三体協会の降臨派が独占している三体文明からのメッセージを奪取するため、ナノマテリアルのワイヤーを使ってデータの保存されているタンカーを運河でスライスしようという斬新な作戦だ。

古筝作戦の舞台はパナマ運河だったが、私がこのシーンを読んだときはちょうどスエズ運河でコンテナ船が座礁したというニュースが出ていた時期だった。

運河の写真を目にする機会が多く、あの狭い運河にワイヤーを50センチごとに張ったのか、とイメージもしやすかった。

古筝作戦でタンカーが通る場面は汪淼の緊張感がこれでもかと伝わってきたし、ワイヤーで船が切断されていく音や光景の生々しさといったらない。

特に切断後の「巨船はトランプの山を前へ押しくずしたような姿になった」という文章。

これで頭の中で船の姿が完全再現された。きっと翻訳がすばらしいのだろう。

VRゲーム三体の世界も実写化したらすごそうだなと思うが、古筝作戦はリアルさの延長という感じがあり『三体』の中で飛び抜けて衝撃的だった。

おわりに

人間の想像力ってすごいな、というのが全体をとおしての感想。

SF小説にあまり詳しくないことが不利になるかと思いきや、知らないからこそ何もかも新鮮で、驚くことばかりだった。

圧倒的なテクノロジーを持つ三体世界に人類はどう対処するのか。

史強の「虫けらはいままで一度も敗北したことがない」という言葉に期待を寄せつつ、『三体II 黒暗森林』上下巻を読み始めたい。

劉 慈欣(著)、大森 望(翻訳)、光吉 さくら(翻訳)、ワン チャイ(翻訳)、立原 透耶(監修)

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プロフィール


Seina

イギリス滞在経験あり。元フォワーダー業界勤務。吹奏楽経験者。英検1級取得者。ドラクエでひらがなを覚え、FFと青春を過ごしたゲーマー。

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